リーダーシップ開発フォーラム 第3部

GEのリーダー育成と日本における取り組み

日本GE株式会社 人事部長 木下達夫様

Mr_kinoshita【GEとP&G】
「ベストリーダーシップ企業調査」で9年間連続してランクインしているのはP&GとGEの2社だけだというお話がありましたが、私は大学を卒業後P&Gに5年間勤務し、採用とクライアント人事を担当しました。その後、人事以外の分野にも幅を広げたいと考え、GEのリーダーシッププログラムに参加。財務やタイの工場人事などに携わった後、いまに至ります。

GEのリーダーシッププログラムでは、2年間で8か月のアサイメントを3つ経験します。私がプログラムに参加し、アメリカやカナダ、タイで経験を積んで感じたのは、グローバルとローカルの経験のミックスが大切だということです。グローバルアサイメントで成功するには、ローカルの経験だけでは鍛えられない筋肉が必要だと感じています。現在、海外のGEに勤務している日本人は約70人いますが、私はその3倍、少なくとも200人まで増やしたいと考えています。 

P&GとGEの大きな違いは、生え抜き主義か否かです。P&Gは全世界で同じようなバリューを持った人を新卒採用し、社内で育成するという、日本企業に近い考え方を持っています。一方のGEは、企業買収の結果、社員になった人もいれば、中途採用で入ってきた人もいる。ただし、どんな形で入社したとしても、特別扱いされることは一切ありません。

GEとP&Gの2社に共通しているのは、株主に対する経営陣のコミットメント・説明責任が高いレベルで求められていることです。取締役会がチェック機能を果たすガバナンスがしっかり機能していますので、役員一人一人が会社を持続的に成長させるためにリーダーシップを発揮しているかを厳しく問われます。

そんな中、GEでは現在、バリューを刷新し、新しい価値観でリーダーシップ開発をやっていこうとしています。すべての役員が同じメッセージを、それぞれの言葉で出しています。役員が一枚岩になっているかどうかは、どんな人材研修よりも大事なポイントです。

【GEのトップとその経営戦略】
GEはさまざまな変化を仕掛けている会社ですが、CEOは長く務めていることが特徴です。長いサイクルでCEOに相応しい人材を選ぶという方針です。いまの会長、ジェフ・イメルトは13年前に就任しましたし、その前のジャック・ウェルチは20年間トップを務めました。CEOになった年齢は、2人とも45歳です。

2001年にイメルトがトップを継いでから、アメリカ同時多発テロやリーマンショックが立て続けに起こりました。そのため、一見ウェルチのようなドラスティックなことをやっていないように見えますが、実はイメルトになってから、売り上げのグローバル比率が50%から70%へと上昇しています。中南米や中近東、東南アジアにフォーカスし、新興国を巻き込んだグローバル成長へと舵を切っていることがわかります。

イメルトは、就任直後から事業ポートフォリオにおける金融部門の割合を小さくするというミッションを掲げています。ウェルチの時代は、GEの利益の6割をGEキャピタルがあげているという状態でした。一方イメルトは、リーマンショック前からテクノロジー・オリエンテッドな会社として、インフラで社会課題の解決を目指すことを宣言しており、金融部門の割合はアルストムの統合により25%まで下がる予定です。

【GEO候補の育成】
イメルトは、入社してからオフィサーになるまでに15年かかりました。GEにおけるオフィサー就任までの最短期間は11年、最長は29年、平均で20年程度です。33歳でオフィサーになった女性もいます。

GEにおけるCEO候補者は、急成長しているグローバル事業のトップに抜擢されます。イメルトも当時はヘルスケア事業のトップに抜擢され、売り上げを劇的に伸ばしました。大事なのは、場を作って思い切って任せ、経営者としてのスタイルを観察すること。その過程で、この人ならGEの未来を作れるという人を探っていくのです。

【GEの変革】
GEは、単にモノを売るだけではなく、それに付加価値を乗せていくための“3つの変革”を掲げています。

1つは“インダストリアル・インターネット”です。モノとモノとをネットでつなぎ、情報を解析して稼働率を高める方法です。たとえば、発電機は1%稼働率を高めることで、お客様に何百億円といった貢献ができます。現在日本では、古くなった火力発電の発電機をフル稼働させていますが、発電機をネットに接続して稼働状況を詳細に把握できるようにすることで、早めにメンテナンスの必要性が確認できるようになります。

2つ目は“アドバンスト・マニュファクチャリング”です。たとえば航空機エンジンは、1つひとつのパーツをカスタムメイドで作っています。その部品を3Dプリンターで作れば、簡単な上に安全上のメリットもある。投資の価値があります。

3つ目は“グローバル・ブレイン”です。仕様を提示し、航空機エンジンのパーツのデザイン(CAD)を公募したところ、インドネシアのエンジニアが選ばれました。現在GEではそのエンジニアと契約をし、次の新型エンジンに使われるパーツを作っています。このように、「人材を自社の中で完結させるな」というメッセージが出されています。

【企業文化を変え、新しい価値観や行動基準を定着させる】
このように、GEのリーダーには、常にカルチャーや組織を変えていくことが求められます。現在GEでは、自社の変革に関して、ITスタートアップ企業に学ぼうとしています。GEもITスタートアップのようなDNAを持たないと生き残れないという強烈な危機感を持っているのです。『リーンスタートアップ』の著者、エリック・リース氏と契約して、オフィサー級から順に研修を行っています。

GEは、航空機エンジンや電力、医療機器など、いわゆる規制業界におけるビジネスを手掛けています。そのため、そう簡単には変えられないという古い考え方が染みついているのが現状です。しかし、それでは通用しません。新しいGEを作るには現場からボトムアップで変えていく『リーンスタートアップ』の考え方ができないとダメだということを、イメルトははっきりと打ち出しています。

たとえば最近のソフトウエアは、最初からファイナルバージョンをリリースするわけではありません。バージョンアップしていくことを前提で世の中に出していきます。こうした新しい価値観や行動基準を、GEも取り入れようとしています。

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【GE Beliefs】

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そして今回、GEのバリューが大幅に刷新され、「GE Beliefs」となりました。内容はいたってシンプルです。

ここに込められたメッセージとしては、「変化が速く、先が読みにくい世の中においても、言い訳をせずに腹を決めろ。どんなときにもリスクを取って大きな仕掛けをしておけ」という内容が読み取れます。また、この「GE Beliefs」の徹底において、人材育成がリーダーのマストジョブだという考え方も徹底されています。

イメルトは、自分の時間の3割を人材育成に充てていると公言しています。私の上司である日本のGEのトップも3割を使っていると言っており、育成に関する何かを頼んだときに断られたことはありません。

GEには「人事はCEOとCFOと一緒に戦略を推進するビジネスパートナーである」という考え方がありますが、とてもGEらしい考え方だと思います。会社のトップとしてやらなければならないことを、人事とCEOとCFOで分担し、経営企画的な要素もこの3者が共同で担うというのがGEのやり方です。

以上のように変化していくことを目指しているGEですが、変化しない3つの軸もあります。それは、「全社員を対象とした育成にフォーカスする」、「実力主義へのコミットメント」、そして、「“何を”と“どのように”の双方を大切にする」という3つです。そしてまた、「常に変化し続ける」という姿勢も変わりません。

【GE人事のミッション】
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「GE Beliefs」が新しくなったため、人事に求められる役割も変わってきました。人事のミッションの最新バージョンでは、組織としてのカルチャーを進化させていくことが究極的なミッションであると定められ、そのために社員を刺激し、リーダーを育て、ビジネスのグローバル化を促進し、シンプルさを追求するという4つを掲げています。

なかでも、危機感を持って会社を大きく変革しなければならない状況において、人事こそが最も先見性がなければダメだということも明言されています。“HR must be Creative”、クリエイティブな人事をどんどん仕掛けてほしいというメッセージが投げかけられています。

【日本のGEの人事】bcl_6

さて、新しいミッションに関し、日本のGEの人事はどれだけできているかを社内でアセスメントしてみました。

「信頼されるアドバイザーたれ」。リーダーの右腕として、何を行い、何をしてはいけないかをアドバイスすることは、事業部に関わらず比較的できていると言えます。

「ビジネス戦略を立てる」。これは、さまざまな人事データを分析し、たとえば「ソフトウェアの活用で成長するためには、このような組織体系が適している、そのために必要な新しい人材要件はこれではないか?」ということを、人事から経営へ積極的に提案していこうということです。数年後に実現したいグローバルビジネスのビジョンがあるのなら、前倒しで人事が先手を打っていく。そして、経営陣に影響を与えて経営に参画していくことが求められています。

「カルチャー・シェイパー」。これは、人事が率先してカルチャーを作っていくということです。目新しいことではありませんが、ビジネスモデルを変えようとしている中で、今まで以上に重要性が高まっており、正直まだまだできていない認識です。

もう1つ、できていないと思うのは「アウトカムベースな人事」という部分です。人事はともすると、こんな施策をやった、あんな制度を作ったと自己評価しがちですが、その結果、ビジネスのアウトプットは出せたのでしょうか? 

また、ITに関して、人事はもっとも未来志向であるべきなのですから、人事が率先してITを使いこなすべきです。

私自身が人事の基本として今まで以上に時間を投資したいと考えているのは「現場で社員と接する」ということです。現場から自発的に動く企業カルチャーを作るためには、リーダーと話しているだけではダメです。もっと社員目線を持ち、社員に接して影響力を与えていけるような人事を目指していきたいと考えています。

【バリューと人事評価、後継者プラン、タレント育成】
GEの人事評価は、縦軸を業績、横軸をバリューとしたナインブロックを活用して行われています。業績とバリュー、どちらも同等に大切ですが、昇進を決めるときにどちらを重視するかというと、バリューのほうを重視します。

また、後継者の育成に関しても、半期に一度レビューします。つまり、リーダーが後継者の育成にどう取り組んでいるかが評価に関わってくる仕組みとなっています。

GEでは、業務を通じて人材にスキルを習得させるのが80%、クロトンビル研修所での研修などの「気づきの場」を与えることで習得させるのが20%と考えています。

業務においては、本人が考える以上のストレッチなアサイメントを与え、優秀な人には大きなチャレンジが次々と来るような仕組みを用意。厳しいプロジェクトを通しての成長を促しています。

一方のクロトンビルの研修に関しては、参加している人のグローバル化が一層進んでいることを感じます。また、単なるエグゼクティブ・ディベロップメントから進化し、ベンチャーのような柔軟性やスピード感を養うことを考えた研修が行われるようになっています。

では、日本においてはリーダーをどのように育成しているのでしょうか?

現在日本には60人のエグゼクティブがいて、次のエグゼクティブ候補の30人が次世代リーダーとして選抜され、日本独自のプログラムに参加しています。日本においては、次の3年間は毎年2桁成長が続くと考えており、ビジネスとしては強気の見込みを立てています。ただし中長期で見た場合、日本にエグゼクティブ・ポジションが増えるとは考えられません。

そんな中で、次世代リーダーと目されている30人をどうモチベートしていけばいいのか? 上位の人が定年になったり、駐在員が帰国したりといったチャンスが巡ってきたら、次世代リーダーがアポイントされるようにする、また海外での機会を提供するにはどうしたらいいのか? 今後は人事がいろいろな仕掛けをし、事業部をまたいだ異動も増やしていきたいです。こういった施策を進めやすいのは、各事業本部のトップが自ら旗を振ってくれているからです。

【GEの人事の今後】
今後の1つの方向性として、「評価をやめる」ことを検討しています。年に1回の評価では、どんどん変化していく時代についていくことができません。年初に立てた目標が、数ヶ月もたたないうちに陳腐化していることも珍しくありませんし、新しいチャンスが見えたら、さらに上を目指すのも当たり前です。そういったことから、いくつかの部門や事業部でパイロット的に評価を廃止し、2016年には全世界で導入することを検討中です。

現在の評価の仕組みのデメリットは、真ん中に位置する50%ほどの人たちがモチベートされないということです。50%の中でも、伸びている人がいればそうでない人もいます。本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話しあいながらいまよりも良い自分になっていけるような仕組みにするために「目盛り」という考え方をやめようとしています。GE Beliefsと目標に対する達成度という軸は残しながらも、これまでのように9つのブロックに分けるということはしないということです。

こうした取り組みはITや製薬会社の一部ですでに取り入れられています。このようなトレンドをGEという30万人規模の企業でどう取り入れていくか、いまは試行錯誤しているところです。そして、これは新しい制度をつくることを目的にやっているのではなく、次の時代を生み出すリーダーをつくっていきたいという思いで取り組んでいます。

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「ベストリーダーシップ企業調査」の結果はこちらからご覧ください。