日本企業の人事政策に関する提言

コーン・フェリー・ヘイグループ代表取締役社長 高野研一が日本企業の人事政策に関して提言いたします。提言は全5回で、原則隔週月曜日に更新いたします。

その1: 次世代を担う経営者の選抜・育成のあり方を見直す

国内市場の縮小・情報革命の衝撃

いま、国内の人口は減少に転じており、そのスピードは東京オリンピックの開催される2020年あたりから加速を始める。いまは上向き加減の景気に助けられて人材の不足感すら出ているが、オリンピック後は一気に不況感が顕在化する可能性がある。

また、情報革命の進展により、日本企業が得意としてきたものづくりの付加価値が低下している。そして、ハードだけでなく、ソフトやサービス、通信をカバーするビジネス・プラットフォームのデファクト・スタンダードを握る企業へと利益がシフトしていく。こうした現象は、もはやIT業界に留まらず、自動車、小売、金融、サービスなど、ほぼ全ての業種へと広がりを見せつつある。

その一方で、2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入に伴い、企業が生み出す付加価値・収益性に対する株主の要求はレベルアップしている。ROEが5%を切る企業に対しては、取引金融機関ですら、株主総会で経営者の再任案に否決票を投じざるを得ない環境になってきている。

日本企業の経営者育成の問題点

そうした中で、日本企業の経営者育成のあり方が問題になってきている。多くの日本企業は、終身雇用制を取り、ひとつの会社しか経験したことのない人の集団が形成されている。これは、問題が複雑化し、もはや一企業では解決できなくなり、エコシステムへの参加やオープン・イノベーションが求められる時代に完全に逆行している。また、年次管理に基づく年功的昇格慣行や、選抜や抜擢を嫌う風土が、若くして経営経験を積ませることを難しくしている。実際、20代・30代で役員になれる企業では、年齢に関わらず経営能力の高い人材が輩出されているが、50代にならないと経営経験が積めない企業では、やはり経営人材が育っていない。去勢されてしまうのだ。

さらに、バブル崩壊以降、専門性の重視とともに強化されてきた縦割りのキャリアパスにより、バリューチェーンの全体像が見える人材が育っていない。かつて高度成長期においては、小さな事業を大きくする経験をする中から、多くの経営者が育った。小さな事業を大きく育てようとすると、自ら顧客を訪問して営業し、ものが売れ始めると、今度は生産・物流のプロセスづくりに回り、ものが流れ始めると、コスト管理を強化し、売上を利益に変えていくなどを経験する。それを通じて、経営に関する全ての機能を直接経験することができたのだ。しかし、いまは設計一本、生涯営業という人が多く、既存のビジネスモデルの一機能を回すことは誰よりも優れているものの、バリューチェーンのあるべき姿や新たな企業価値の創出策について語れる人が絶対的に不足している。

経験・キャリアパスをマネジメントせよ

このように、既存のビジネスモデルを再構築し、新たな価値を生み出すことが求められている一方で、それができる経営人材が圧倒的に不足している。これまでの人材育成法のままでは、企業価値を成長させていくことが、ますます難しくなっていくだろう。

それを補完するため、MBA型の知識教育に力を入れる企業が少なくないが、それによって新たな企業価値を生める経営人材が輩出されたという話はあまり聞かない。それは、新たな企業価値を生むことは、知識を蓄えて試験で点を取ることよりは、スポーツや武道をマスターすることに近いからだ。「こうすればボールが真っ直ぐ飛ぶ」「こうすれば人を投げられる」というのを頭で理解することはそれほど難しくないが、実際に人を投げることは極めて難しい。そこで必要になるのは知識ではなく、正しい「型」をマスターするための実践的訓練なのだ。

新たな企業価値を生み出すためには、将来の市場構造・バリューチェーン・収益構造について仮説を立て、それが企業価値に与えるインパクトをシミュレーションし、検証するスキルをマスターしなければならない。これが企業価値を生み出すための「型」だ。シリコンバレーの起業家は100%の時間をこうした仮説検証に投入している。そこからあれだけの企業価値が生まれてくるのだ。

自社の社員にこうした「型」をマスターさせるための訓練法もすでに存在しているが、より効果を高めようとすると、縦割りのキャリアパスから脱却させ、バリューチェーン上の様々な機能を早期に経験させる必要がある。人間の脳は、自分が経験したことのないことは、イメージすらできないようにできているからだ。つまり、経験やキャリアパスのマネジメントが有効になる。また、新たな企業価値について仮説を立て、検証する訓練を実戦の場で積ませるために、早い段階で事業責任者のポストに就けることも必要になる。40歳代にならないと事業部長に就けられないといった人事制度は変える必要がある。

もちろん、そうした機会を全ての人に与えることは難しいし、その必要も無い。適性のある人材を早期に見抜いた上で、限られた経験の機会をポテンシャルのある人材に集中投下していく必要がある。そのために、ポテンシャルのある人材をアセスメントする手法も存在している。

次世代の経営者として育つポテンシャルのある人材を、成長の見込みにくい既存事業に張りつけておくことは、企業価値の創出に逆行する。そうした人材を発掘し、成長の可能性のある事業に他社よりも早く異動させられる企業が、これからの時代を生き残っていくことになるだろう。

コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社
代表取締役社長 高野研一
プロフィール

>第2回はこちらよりご覧ください。