日本企業の人事政策に関する提言

コーン・フェリー・ヘイグループ代表取締役社長 高野研一が日本企業の人事政策に関して提言いたします。提言は全5回+特別篇です。

その4: 組織風土・生産性の問題を解決する

日本企業の組織風土の気になる変化

我々は世界中の企業の社員意識調査の実施を毎年支援してきているが、近年、日本企業の組織風土に気になる変化が生じていることに気づく。「2~3年先のビジネスの見通し」「経営陣への信頼感」などは比較的良好な一方で、「戦略の妥当性」に対する肯定的回答率が大きく下がってきているのだ。つまり、目先のビジネスに不安はないものの、長期的な方向性について疑念が生じているということだ。

また、「やりがいのある仕事をする機会」「個人の尊重」「成長の機会」「権限委譲」「チームワーク」などが大きく変化していないか、むしろ改善している一方で、「社員エンゲージメント(働く意欲)」「会社に対する誇り」「決められた業務分担を越えて仕事に取り組む姿勢」「高い目標にチャレンジする風土」が大きく低下している。

特に、「決められた業務分担を越えて仕事に取り組む姿勢」などは、かつて日本企業の強みといわれたものであるが、そこが大きく低下しているのだ。やりがいのある仕事や成長の機会に恵まれているにも関わらず、なぜ「意欲」「誇り」「姿勢」「チャレンジ精神」が低下しているのだろうか。

これを知る手がかりとなるのが、職種別、年齢帯別の回答傾向である。日本以外の国を見ていると、職種や年齢による回答傾向の差はそれほど大きくない。ところが日本を見ると、生産や品質管理といったものづくりの現場や、60歳以上の高齢者層で、肯定的回答率が著しく低下しているのだ。図らずも昨年は日本企業の品質偽装問題がクローズアップされた年になったが、これが生産職や品質管理職のモチベーション低下と無縁であるようには思えない。

組織風土に影を落す情報革命・高齢化社会

こうした現象から推察されることとして、国内市場の飽和や、中台韓の企業のキャッチアップ、情報革命の進展などにより、日本のものづくりの現場の付加価値・収益性が低下してきていることが挙げられる。それを補うために現場に負荷がかかり、その無理が近年様々な形で表面化しつつあるのではないだろうか。

数年先に大きな業績の悪化が見えているわけではないものの、国内生産拠点の付加価値が低下していく一方で、それに代わる戦略が見出せていない閉塞感が、組織風土の悪化につながってきていると考えられる。

また、高齢化社会の進展によって、今後60歳以上の定年後再雇用の社員が増えていく。再雇用によって給与水準が大きく下がった社員は、当然モチベーションも下がる。そうした社員が職場に増えていくことによって、組織風土全体にもネガティブな効果が及ぶようになってきている。
 
情報革命や高齢化は今後さらに進展していくことから、国内において新たな企業価値を生み出す戦略が見出せなければ、組織風土の問題は、これから益々深刻化していくだろう。その一方で、日本企業においても優れた組織風土を維持している企業は存在する。そうした企業は、どこに違いがあるのだろうか。

トップダウンとミドルアップの両輪が組織風土と生産性を高める

結論からいうと、トップダウンとミドルアップの両輪が回っている企業では、組織風土が良好で、社員エンゲージメント(働く意欲)も高いことが分かっている。そのいずれか一方でも弱くなると、途端に組織風土は悪化する傾向がある。カリスマ的な経営者のいる企業では、トップダウンはよく利いているものの、ミドルマネジメントがそれに付いていけておらず、結果的に社員の働く意欲を引き出せていないことがよくある。その逆に、ミドルマネジメントがしっかりしているにも関わらず、経営環境の急変によって将来の方向性が見えにくくなり、組織全体が迷走をはじめている企業も増えている。

トップダウンがしっかりしている企業では、何をすれば価値が出せるのかについて、社員の間に迷いが少ない。一方、ミドルマネジメントがしっかりしている企業では、相互連携がうまく機能し、社員の時間が最大限に生かされる。生産性とは「アウトプット/時間」と2つのファクターに分解できるが、トップダウンは分子のアウトプットに社員の意識を集中させ、ミドルマネジメントは分母の時間の活用法、働き方を最適化していると考えることができる。このため、トップダウンとミドルアップの両輪が回っている企業では、生産性があがり、組織風土が良好になるのだ。

さらに、「前回社員意識調査を実施して以降、各職場で改善努力が行われたか」どうかを聞いているが、60%以上の社員が肯定的に回答した職場では、社員エンゲージメント(働く意欲)が大きく改善する傾向があることが分かっている。逆に30%を下回ると、社員エンゲージメントは大きく悪化する。このため、自社の場合、トップダウンとミドルアップのいずれに改善余地があるのかを見極めた上で、できるだけ多くの社員を巻き込みながら改善活動に取り組んでいくことが、組織風土や生産性の改善に直結するといえる。

コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社
代表取締役社長 高野研一
プロフィール

その1: 次世代を担う経営者の選抜・育成のあり方を見直す
その2: プレイングマネジャーからビジョナリー・リーダーへの脱皮を促す
その3: 進化論型経営の導入により情報革命を生き残る
その4: 組織風土・生産性の問題を解決する
その5: 役員指名・後継計画を強化する
特別篇: パワハラ上司に関する考察